2011年03月10日

学生さんからの質問

先日、奥と楚洲へ行ってきました。
詳しくはまたお知らせしますが、那覇周辺のエコショップと共同売店とを結んで、互いに仕入れと販売を助け合う仕組みが作れないかという企画を進めています。
また、ファンの方がfacebookにファンクラブのページを作ってくれたり、twitterを始めたりと、いろいろ動きはあるのですが、それもまた後日。

今回は、昨年、愛知県の大学4年生の方から共同売店に関する質問を受けて、分かる範囲でお答えしましたので、ご本人に承諾を得た上で、ブログでも紹介したいと思います。(内容は多少訂正しています)


<学生さんからのメール>**************************************

はじめまして
愛知●●大学の●●と申します
大学の授業で共同店について調べているのですが、何軒かの店舗にインタビューしたところ、昔と運営方法が変わっている店舗しか無く、共同店独自の運営法・集金モデルを続けている店舗を見つけられませんでした。
そこで、もしご存知でしたら昔ながらか、それに近い方法で今でも商売をしている店舗を紹介していただきたいと思いメールさせていただきました。
よろしくおねがいします。

<私からの返信1>**************************************

共同売店ファンクラブの眞喜志と申します、ご連絡ありがとうございます。

共同売店についての情報は、一軒一軒当たるしかないので調べるのは大変ですよね。
私も研究者ではないですし、各店について、過去現在に渡って運営方法を確認したわけではないので、お役に立てる情報はないかもしれません。
ただもう少し具体的に、何をお調べになっているのか知らせていただけるとお役に立てるかもしれません。

>何軒かの店舗にインタビューした

どこの売店を回られたのでしょうか?

>昔と運営方法が変わっている
>共同店独自の運営法・集金モデル
>昔ながらか、それに近い方法

どのような運営方法を言っているのでしょうか?
また、そのような共同店を見つけて、どんなことを調べて、どう役立てたいと思われているのでしょうか?

逆に質問ばかりですみませんが、何とかお役に立ちたいと思っています。
お急ぎなら携帯に電話してくださっても構いません。もちろんメールでも大丈夫です。
ご研究に期待しております!
今後ともよろしくお願いいたします。


(* この後、お電話を頂いて「本島や離島の数店を電話でヒヤリングした旨」や、追加の質問を受けたので、以下メールにてお答えしました)


<返信2>***************************

昨日はわざわざお電話頂きありがとうございました。
長くなりますが、整理してお答えする必要がありそうでしたのでメールでお答え致します。

ご質問は要約すると、
「現在の共同売店は、スーパーと変わりないのではないか?」
ということのようです。

スーパーとの違いが分からない一番の理由は、おそらく両者の「小売店」としての表面的な事業に目を奪われてていらっしゃるからだと思います。
それはたぶん●●さん個人の責任ではなく、日常の経済的な常識ではあまり顧みられていない点だからだと思います。

まず両者の違いを簡単に言えば、当たり前のようですが、
「普通のスーパーなら、とっくにつぶれている」
ということです。
コンビニや農協スーパーならすぐに撤退です。
共同売店は「スーパーやコンビニが成り立たない立地で営業を続けている」という点で、まったく違うわけです。
コンビニの商圏人口ではありえない、わずか数十人という小さな集落の住民だけを対象に営業している共同売店もあるわけです。
だからむしろ「なぜそんなところで営業しているのかが不思議」な店です。

なぜそんな不利な場所で営業を続けているのでしょうか?
それは共同売店がいわゆる「商店」と異なる、「地域住民の自治による自主事業」だからです。
住民自治の一環として取り組まれている「自分たちの生活に必要なものを手に入れるための共同購買活動」だから、儲からなくてもやるわけです。
表面上は同じ小売店ですが、「スーパーやコンビニがないから自分たちで運営している」という点で本質的に異なります。

言い換えると「儲かる場所には出店するが、儲からなければすぐにやめる・撤退する」という店と、「儲からないけれども、自分たちが必要としているのだから店を作ろう、何とか営業を続けよう」という店との違いです。
矛盾するようですがあえて言えば、スーパーも共同売店も同じ「スーパー」です。
やっていることは同じです。
何が違うかというと、共同売店は「住民が自分たちでやっているスーパー」です。
たとえ仕入先も商品も一般のスーパーと同じだったとしても、「住民がやっている」ということだけで、十分に共同売店の特異性が成立します。

つまりそれは、出資者・運営者の違い、利用者・受益者の違いです。
スーパーやコンビニというのは、主に都市部に本部を持ち、株式を公開している企業だったりします。場合はよっては外資だったりします。
東京や外国の本部の社員や株主が、その店で実際に買い物をするために開店したわけではありません。
当たり前だと思うかもしれませんが、設立者と利用者が、お互いに顔を合わせることはありません。
利益をあげるために、遠く離れた場所にいくつも店を出すわけです。
それに対して共同売店は、出資者・運営者と利用者が同じ住民です。
同じ人が、株主であると同時にお客さんでもあるわけです。
それは「組合」という組織の本質でもあると思います。

出資者の違いは非常に大きな問題です。
利益がどこに行くか、儲けのあるなしが、運営や存続に直接関わってきます。
共同売店の利益は地域住民自身に還元されます。
これは現金配当だけでなく、様々な形で還元されています。
そしてたとえ儲けがなくても続いていくわけです。
それに対しコンビニやチェーン店は当然、本部・本社や株主の利益が第一なわけです。(残念ながら農協もそうなのかも知れませんが)
「コンビニは本社とバイトしか儲からない」と皮肉を言われるようですが、フランチャイズ店は非常に苦しい経営をしている例が多いようです。
儲からなければさっさと撤退して新しい場所へ移っていくか、店じまい。
残った建物は携帯電話の販売店などに変わりますが、そこでは当然、生活に必要なものは「電話」しか手に入りません。

そこで一番初めのご質問に戻りますが、

>昔と運営方法が変わっている店舗しか無い

どんな運営方法のことを仰有っているのか分かりませんが、設立から100年近く経っているのですから当然、表面的には変わっていることもたくさんあります。
しかし、地域住民が地域住民のために自主運営している点は、設立当初からどの店もまったく変わっていません。
これは同じ協同組合組織である農協や生協と比較しても異なる点でしょう。
一部、観光客を対象にした商品を扱いますが、それは減ってきた利益を補うための苦肉の策であって、メインではありません。

>共同店独自の集金モデルを続けている店舗がない

これはお電話でもお答えしましたが、●●さんの誤解です。
共同売店は初めから、毎月毎月出資する方法は取っていません。
最初に店舗を建設したり商品を仕入れたりする資金を住民で出し合い(あるいは銀行から共同で借入れ)設立したものです。
設立後は、利益が十分にあればそのまま運営を続けられますし、建て替えや赤字で資金が足りなくなった場合にのみ、再出資を募ったり、区の予算(区費、自治会費など)から補填している場合等があります。

>コンビニではなく共同店である必要性はあるのか

当然あります。
コンビニと共同売店の違いで説明した通りです。
スーパーやコンビニが「住民に必要とされている限り、赤字を出しても営業を続ける」という店なら話は別ですが、そんなコンビニはありません。
儲からないところには最初から出店すらしません。
CSR(企業の社会的責任)も広まってきてはいますが、私企業は地域に対してそこまで責任は負いません。
出店する時は既存の商店街や小売店を押しのけるようにして入ってきたスーパーも、儲からなくなったら撤退です。
農協でさえ組合員を見捨てて地域から撤退していく時代です。
だから「必要性があるか」ではなく、住民自らが店を設立せざるを得ないわけです。
先ほども述べた利益の還元という仕組みも、持続可能性の面で非常に重要です。
いつなくなるか分からない店に頼っていては、安心して暮らしいくことはできません。
また、共同売店は単に商品を手に入れるための場所であるだけでなく、住民同士の自治活動ならではの非常に幅の広い機能を持っています。
「利用者と運営者が非常に近い」という特徴から生まれる、福祉的機能や、地域コミュニティの活性化などがそうでしょう。

都市に住んでいると気がつかないかも知れませんが、「小売店」というのは過疎地では非常に公共性の高い社会インフラです。
社会性や公共性の高いサービスに、経済的な合理性や市場原理を当てはめすぎた結果、住民による相互扶助機能や自治そのものが失われていこうとしているのかも知れません。
最近はコンビニでも「地域や高齢者のためのサービス」を始めたり、「移動販売車」や「宅配便」が買い物難民を救うような話も出ているようですが、私はかえって心配しています。
むしろ「買い物難民」だけでなく、「福祉難民」や社会サービスの地域格差、コミュニティのさらなる弱体化や崩壊など、さらに深刻な問題も生み出すような気がします。

>全国の「買い物難民」問題を解決するために、共同売店のノウハウは有効ですか?

もちろん有効です。
現実に住民が出資し運営する店が実際に多数設立されてきていますし、また宮城県丸森町の「なんでもや」さんのように、実際に奥共同店に学んでできた店もあります。
もちろん、地理的事情やコミュニティの性格も様々ですから、沖縄の共同売店をそっくり真似ることはできないでしょう。
しかし、「スーパーがなくなったら、住民が自分自身でやるという方法がある」ということを知るだけでもとても有効だと思います。
行政サービスにも民間サービスにも頼れなくなったら、地域コミュニティ自身が担うしかないことを、共同売店を通して気づくことができます。
そしてすでに全国に実例があり、沖縄では100年以上続いている店がたくさんあるという事実は、新たに店を出そうと考える住民の皆さんに大きな勇気を与えているはずです。

補足として関連する私のブログのエントリーです↓
・同じく学生さんからの質問 http://kyoudoubaiten.ti-da.net/e2309263.html
・大分の店、「ノーソン」 http://kyoudoubaiten.ti-da.net/e2529497.html
・農協撤退で住民出資の店 http://kyoudoubaiten.ti-da.net/e2207038.html
・フードデザート、買物難民 http://kyoudoubaiten.ti-da.net/e2532371.html

長くなりすみませんが、まだご不明な点があれば遠慮なくご質問下さい。
それから再度のお願いですが、今回お調べになっているのはどのような形でまとめたり発表したりするのでしょうか?
またよろしければ、一連のやり取りをブログなどで紹介させてもらってもいいですか?もちろん学校名や個人名は伏せます。

よろしくお願いいたします。

<学生さんからの返信>**************************************

メール確認しました
とても解りやすく、参考になりました
ブログ掲載に関しては、全く問題ないです
発表は年末には、形になると思います
その際に、何枚かのレジュメにまとめて提出する予定です。
また質問するかも知れませんが、有難うございました。




同じカテゴリー(共同売店とは?)の記事

 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。